若い頃、週刊プレイボーイでよくみかけた名前が天才学者、小室直樹。ご縁がなくて一度も著作を読んだことがないのだが、この本で思い出した。
表紙の鋭い、いかにも賢そうな学生服の写真。「栴檀は双葉より芳し」と言われるようにその天才の片鱗は小さい頃からあった。その天才の生涯のエッセンスを紹介しよう。
・平成22(2010)年9月3日。ひとりの天才がこの世を去った。
名前を小室直樹という。
・母チヨは幼い頃から直樹の才能に気がついていた。隆吉やチヨが話した言葉や国民学校で聞いた話をすべて記憶する。
どこで聞いて覚えたのか、チヨの知らない言葉するしゃべっている。年を重ねる毎に直樹の使える語彙の量は、どんどん増えていった。
頭の回転もきわめて速い。直樹のいう理屈にかなわず、言い負かされることも度々であった。
チヨは、直樹はきっと立派な人間になると確信していた。
「この子は頭がいいんです。きっと立派な大人になります」
外で知人に会う度に、そういって直樹を紹介した。
・国語、数学、社会、あらゆる分野の知識量において、小室は級友と比べ群を抜いていた。ただ非常識ぶりもまた群を抜いていた。
小室の文才の秘密は、そのおそるべき読書量にあった。
部屋に閉じこもって、あらゆる書籍を繙き、その世界に没頭した。
愛読書は『少年講談』(大日本雄辯會講談社)その影響で「征夷大将軍」になりたいと思うようになる。
小説を読み切ってしまうと、国語辞典を読んだ。辞典も読み切ると、さらに読んだことのない本を探して母屋の本棚を漁った。
そこにあった大量の漢籍も熟読して、しまいには暗記してしまった。
こうして小室の語彙力、言語感覚は養われていった。
・「小室直樹です。理学部一回生。物理学科志望です。高校は会津高校です。日本は戦争には勝っていたが、原子爆弾で敗けました。だから湯川(秀樹)さんの研究室に入って原子力を研究し、もっとすごい爆弾をつくって、“アメリカ征伐”に行く。そのために京都大学に来ました」
・人生かけての目的。それは世界に冠たる大日本国の再興、これである。
それは英雄によって成し遂げられるであろう。その英雄こそ自分であると確信していた。
戦前の輝ける大日本帝国がアメリカに敗けたのはなぜか。
それは「科学」の力が圧倒的に劣っていたからである。だから日本の栄光を取り戻すためには、西洋文明の精華である科学、とりわけ社会科学を体得し、理論的不備を補い、完成させる。それが“社会科学の方法論的統合”である。
・「先日から断食を始めました。期間は二週間程度を考えています。頭をすっきりさせて、いい論文を書くためです」
学問に生きるということはこういうことなのだろう。こういう学者がいなくなったのではないだろうか。下巻が楽しみです。オススメです。(・∀・)