「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「球童 伊良部秀輝伝」(田崎健太)

この本は、ずっと読みたかった本だ。(・o・)

剛球投手・伊良部秀輝は、2011年7月、伊良部秀輝はロサンゼルスの自宅で自ら命を絶った。享年42。

通算成績は106勝 104敗に過ぎない。しかし、その数字では語ることができない記憶に残る投手だった。158キロの日本球界最速記録達成、大リーグ移籍をめぐる大騒動、アジア人初のチャンピオンリング獲得(ワールドシリーズ制覇)、2度の逮捕歴、複雑な家庭環境、突然の死・・。


死の直前に伊良部本人にロングインタビューをした著者は、伊良部秀輝の歩いた日米の土地を歩き、知人たち、さらにはメディアの取材に登場したことがない実父を訪ねる。いままで誰も知らなかった「伊良部秀輝の姿が、ここにある。そのエッセンスを紹介しよう。


・ぼくは以前から伊良部に興味があった。ずば抜けた才能を持ちながらどこか子どもじみている。バランスが悪く、世の中を上手に渡っていけない^ー同世代として気になる男だった。


「どうして軽く投げてあんなに速い球が投げられるのですか?」

「途中までは軽く投げてますよ。力を入れるのは最後、ボールを放すときだけです。後は力を入れても意味がないというか、腕のスイングが遅れたらいけないんで、技術的な話をしますと、できるだけ腕が見えないように、腕を隠す」


「勝ち負けに繋がらない速球はいらないですからね」


「人生のチャプター・ツー(第二章)がある人は羨ましいですよ」


伊良部は柔らかな関西弁の知的な男だった。ただ、その裏側に自分の感情を抑えきれない粗暴さを隠しているようだった。


一人の人間を理解しようとするとき、その人が生まれ育った場所を見て、空気を感じることがどれだけ有効か分からない。ただ、伊良部は様々なことを隠していた。もはや話をきけない以上、彼を知る人間を訪ねて、彼が吸った空気を感じるしかないう。そして、ぼくは伊良部を追いかける旅に出ることにした。


伊良部は自分に甘く、他人に厳しい。自分の物の考えを認めてくれる人間としか付き合わない。高校時代から大切に扱われ、自分が強く言えば何でも通ると思っている節があった。そして、頭ごなしに何かを言われると必ず反発した


・伊良部は相変わらず自分の気持ちを表現するのが下手だった。特に感情が爆発すると、理解してもらえないてもいとふてくされた。それが周囲との溝を作っていた。伊良部はチームの中で孤立していった。


伊良部の心の支えは、三つのプラスティックボックスだった。箱の中には伊良部の好きな不動明王など仏像がぎっしり入っていた。なかにはダーキニーというヒンズー教の女神もあった。


・ベンチから見ていると伊良部の球は、腕から捕手のミットまで餅が伸びたように見えた。下柳(剛)が対戦相手の投手を見ていて、敵わないと思ったのは、野茂英雄と伊良部の二人だけである。二人の違いは野茂の球はより重々しく、伊良部の球はより切れがあることだった


伊良部は練習には全て意味があるのだと教えた。朝、グラウンドで落ち合うとまず軽く走った。「軽いジョギングをして全身の血行を良くして、筋肉の温度、筋温を上げる」その後、ストレッチ、キャッチボールと続いた。キャッチボールは肩を温めるというだけではく、投球練習の基本でると伊良部は考えていた。意識しなければならないのは三点。小さくスムーズな体重移動を心がけること。躯の回転を意識して最大の力を球に伝えるようにすること。そして踏み込んだ膝を正しい方向に向けることー伊良部はいつもこんな風に深く考えて練習してきたのだ。


「毎日やることがない。朝、子どもを学校に送って、ジムに行ってサウナに入る。庭に水撒いて、ペンキ塗ったりして、それで終わりや。まだ40にもなっていないのに、定年の人の生活送っている」


伊良部秀輝の人生は、様々な色を帯びている。突出した才能を持つアスリートの国外への雄飛。旧態依然たるプロ野球体制との闘い、メディアのあり方、ベトナム戦争、沖縄、父と子ー。


・なにより、最も大切な野球を失っていた。かつて伊良部はサチェル・ペイジのように60歳まで投げることを夢想していた。しかし、高知で発症した右手の親指の痛みが続いていた。ぼくが会ったとき、「朝起きると、布団をめくるのでも痛みが走るんです」と顔をしかめた。もう投げられないのならば治す意味がないと考えていたのか、治療を先送りしていた。自殺する気はなかったとぼくは思う。週末に団野村との会食の予定を入れていた伊良部に死ぬつもりがあったはずがない。また、あれは慎重な男である。遺書を準備せずに自殺をするとは考えにくい


・取材の途中、ぼくは眩しそうに太陽を遮る伊良部の顔を何度も思い浮かべた。その顔はどんどん若返り、どこにも居場所を見つけられずに、暗い心を抱えている子どもの顔となった。子どもは正直である。正直だから嘘をつく。伊良部は抜群の野球の才に恵まれた子どもー球童だった。その球童は軀の中に獣を抱えていた。ちょっとしたきっかけでその獣が暴れだし、ときに手が出る。齢をとってから酒が獣をさらに獰猛にし、とうとう制御できなくなったー


野球以外は不器用だったんだなあ…。惜しい人を亡くしたなあ…。あの剛球が懐かしい…。野球ファンにはオススメです。