- 作者: 山藤章二
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/05/19
- メディア: 新書
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30年以上続いている「山藤章二のブラック・アングル」は週刊朝日を読むたびに楽しみにしているページだ。この本は、まっこうからストレートに似顔絵を論じた似顔絵論なのだ!
「似顔絵は〈そっくり絵〉ではない。自分の手元に引き寄せた人物批評だ」みずからのパロディ創作の秘密を語り、「似顔絵塾」の塾生たちの作品がズラリ。似顔絵とはなんとも深いことよ。そのエッセンスを紹介しよう。
・似顔絵は、「そっくり絵」ではありません。盛り場でよく見かける、商売としての似顔絵はそれでいいのですが、自己表現としての似顔絵は別の方向に向いています。相手のほうに近寄るのではなく逆に、自分の手元に全部引き寄せてしまいます。「オレにはこう見える」という「人物論」それが、ぼくの考える似顔絵です。
・似顔絵とは、批評です。肖像画と比較すればそのことがよくわかります。同じく特定のモデルを描くものでありながら、方向性はまったく逆なんですね。偉い人のポロっとこぼれ出た人間味をとらえる。そそっかしさとか、欲深さとか、ずるがしこさとか、そういった部分を好んで書く。いってみれば、引き下ろす方向で描くんです。
・似顔絵のパワーとは何なのか。ぼくはジャーナリズムのエキスというものが根底にあると思っているのです。報道性、記録性、批判性、さらにいうと啓蒙性これらはすべて似顔絵に通じている。ぼくはそう思っています。
・似顔絵は、なぜおもしろいのか。なぜ、笑いを誘うのか。何よりもまず「似ている」ことをおもしろがることと関係している。つまり本物と非本物という関係。本物はこの世の中に一人しかいない。一個しかないという大前提がまずあって、それなのに、そのそばに似たものがあるから滑稽に結びつく。「ひとつしかない」と信じて疑わなかった自分の認識が崩れてしまうおもしろさです。つまり、本物とのズレ、距離感が笑いを誘う。