- 作者: 長谷川櫂
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2011/04
- メディア: 単行本
- クリック: 265回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
著者の長谷川櫂氏はは俳人でもあり、朝日俳壇選者としても活躍している。氏は、2011年3月11日有楽町駅の山手線ホームにいたのだという。高架のブラットホームは暴れ馬の背中のように振動し、周囲のビルは暴風雨に揉まれる椰子の木のように軋んだ。その夜から荒々しいリズムで短歌が次々に湧きあがってきたのだという。氏は俳人だが、なぜ俳句ではなく短歌だったのか、理由はまだよくわからないが「やむにやまれぬ思い」というしかないのだという。地震から12日間の間にその思いを119の歌に詠んだのだ。
氏は、いう。「歌は恋人たちの心を通じさせ、勇猛な武士の心を慰めるだけでなく、天地を動かし、鬼神さえも感動させる力がある。日本人の誰もがこの「歌の力」を信じ、古代からずっと歌を詠みつづけてきたことだろう。大震災は日本という国のあり方を変えてしまうほどの一大事である。しかし、詩歌はそれに堂々と向かい合わなくてはならない。いつかは平安の時代が来るだろう。その平安の時代にあっても何が起ころうと揺るがない、それに堂々と対抗出来る短歌、俳句でなければならない」
胸を打つ歌の数々の代表的なものを紹介しよう。
かりそめに死者二万人などといふなかれ親あり子ありはらからあるを
夥(おびただ)しき死者を焼くべき焼き場さえ流されてしまひぬといふ町長の嘆き
音もなく原子炉建屋爆発すインターネット動画の中に
原子炉が日を噴き灰を散らすともいまだ現れず東電社長
原子炉に放水にゆく消防士その妻の言葉「あなたを信じてゐます」
原子炉の放射能浴び放水の消防士らに掌合はする老婆
目にみえぬ放射能とは中世のヨーロッパを襲ひしペストにかも似る
亡国の首都をさすらふ亡者否!はるかにつづく帰宅難民の列
「こんなとき卒業してゆく君たちはきつと強く生きる」と校長の言葉
「今の若者は」などとのたまふ老人が両手に提ぐる買占めの袋
壊れたる家々はもとにもどらねど三日でもどるバラエティ番組
カップ麺あつというまに売り切れてこんなときにも悪食(あくじき)日本
アメリカに九・一一日本に三・一一瞑して想へ
被災せし老婆の口をもれいづる「ご迷惑おかけして申しわけありません」
身一つで放り出された被災者のあなたがそんなこといはなくていい
葉桜を吹きわたる風よ記憶せよここにみちのくといふ国のありしを
この震災を絶対に忘れてはならない。そして復興を心から祈る。がんばろう!東北!がんばろう!ニッポン!