- 作者: 村崎太郎,栗原美和子
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2010/06/11
- メディア: 単行本
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私は全然知らなかったんだけど、自ら、被差別部落出身であることを公表したんだってね…。この本は、村崎氏とごく一般的な家庭に育った妻・栗原美和子さんとの共著。その壮絶な人生と我々の知らない差別の実態を赤裸々に語った本。そのエッセンスを紹介しよう。
・山口県光市高洲を含む周防地域の部落では、「猿まわし」という商売が代々続いていた。鎌倉時代に縁起かつぎの芸として誕生したのだが、江戸時代には全国各地の賤民たちの生業になった。ところが、明治維新以降、全国から猿まわしは消えた。賤民たちがそれ以外の職にありつけるようになったからだ。にもかかわらず、周防地域にだけ猿まわしは残った。それしか生きていく手段がなかったのだ。農耕権も漁業権も奪われ、荒れた砂地に住まわされ。どうにもこうにも食べて行けなかった先祖が、苦肉の策で思いついたのが、「縁起もの」とされているこの芸だった。私の一族もそのひとつ。村崎家という被差別部落の家に誕生した。
・部落問題には、三代差別と表現されるものがある。就学差別と就職差別と結婚差別の三つだ。就学差別を吹き飛ばすべく猛勉強をした私を即座に待ち受けていたのが就職差別だった。勉強中だった私を父が呼んだ。「太郎、猿まわしにならんか」1961年に日本国内で完全に消滅した芸。それを十数年ぶりに復興させたいと父が言う。
「他人が強いたレールの上をあるくんじゃなくて、道も何もないところを、自分の足で歩いていけ。海のものとも山のものとも分からん世界に足を踏み入れてみろ。そういうロマンに生きろ」
「部落が誇る伝統芸能を復活させろ。差別を受けてきた芸だけれど、厳しい道だけれど、光はあるぞ。迷わず行け。胸を張れ。そして太郎。部落が誇るスターになれ」そう私に告げた。
・彼女はいった。「ならば、結婚します」被差別部落出身者だから、いい。人の傷みを体験してきた人だから、いい。その傷みを乗り越えてきた人だから、いい。人の傷みを知っている人は人を傷つけるようなことはしない。部落出身という生い立ちを持っているあなただから、きっと弱さと強さの両方を痛いほど知っているだろう。「私は、そういう人と出逢うのを待っていたんです」と。
・父が猿まわしを復興させた本当の理由は、もっともっと奥深いものだった。
「人間であれ、猿であれ、ひとつひとつの生命は大切なものだ。その生命は“この世に生まれてきてよかった”と思えるように輝かなくてはいけない。生きていることが幸福でなければならない。これは理想ではなくて現実に保障されなければならないんだ。いいか、太郎。私は未開放部落に生まれてきて、差別という化け物にこっぴどくやっつけられてきた。そして傷ついた。けどな、部落解放運動に身を投じて闘う中で、あらためて生命の尊さを自覚したんだ。私は部落を解放するために立ち上がったのに。いつの間にか日本民族全体が愛おしくなった。いや、生きとし生けるもの、全てが愛おしくなった。これが私の人生の最大の収穫である。だから、私は猿まわしを復興させることができたのだ」
その他、「部落の子に生まれた少年時代」、「部落解放運動家の父」、「うつ病」、「二度の離婚」、「栗原美和子へのカミングアウト」、「父からの勘当」、「一族との別れと孤立」…などは思わずうなってしまう…。あの芸の背景にこんなことがあったなんて。もう21世紀。この問題は真正面から向き合って解決したいよね。おススメ!